アカデミック・ハイ


最終講義-生き延びるための六講 (生きる技術!叢書)
技術評論社
内田 樹

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教育について目が覚めるような、なかなか良い本を読んだ


真に危機的状況に投じられ、自分の知的ポテンシャルを総動員しなければ生き延びられないというところまで追い詰められたら、人間はにっこり笑うはずなんです。
それが一番頭の回転がよくなる状態だから。


人間は「自分のため」では力が出ないものなんです。
「人間は私利私欲を追求するときに潜在能力を最大化する」と殆どの人が信じている。
だから、努力した人には報償を与え、努力しなかった人に処罰を与えるというシンプルな賞罰システムを導入すれば、すべての人間は潜在能力を開花させると思っている人がたくさんいます。
文科省の役人なんか、ほとんど全員そう信じている。
そんなわけ無いじゃないですか。
そういうシンプルな人間観で教育政策を立案してきたから、日本の教育制度はここまで崩壊しちゃったわけですよ。
人間というのは自己利益のためにはそんなに努力しないんです。
だって、どんなに努力してもそれで喜ぶのが自分一人だったら、そもそも努力する張り合いがないじゃないですか。
「面倒くさいから努力するのを止めよう」と思っても、それで迷惑を被るのが自分一人だったら踏ん張る気力が湧かない。
そんなこと誰が考えてもわかる。
知性のパフォーマンスを上げようと思ったら、自分以外の何かを背負った方が効率的であるに決まっています。
自分の成功をともに喜び、自分の失敗でともに苦しむ人たちの人数が多ければ多いほど、人間は努力する。
背負うものが多ければ、自分の能力の限界を突破することだって可能になる。


学知を駆動するのは、学問以外の目的であってはならない。
知性の存在理由は知性そのもののうちに内在している。
僕はそう思います。
自分の知性の活動が最大化するときの、最高速度で頭脳が回転しているときの、あの火照るような体感に「アディクトする」人間がいて、そういう人間が学者になるんです。
「あの感じ」を繰り返し経験したくてたまらない。
だからどうやったら自分の知性が最高速度で機能するようになるのか、その手立てを必死になって考える。
「だから他のことはどうでもよくなる」というのじゃないんです。
そんなわけ無い。
だから、使えるものは全部使うようになるんです。
自分の知的パフォーマンスを高める可能性のあるものは総動員する。
それが本当に学者だと思います。


例えば、筋力とか、心肺機能とかを高めるために、あれこれ工夫する人はいくらもいるのに、自分の知性の性能を向上させるためにどんな手立てがあるかということを、純粋に技術的な視点から考察する人は殆ど居ません。
驚いたことに。
殆どの人は「人参と鞭」という単純な手段しか思いつかない。
よく勉強した子には人参を与え、怠るものには鞭を喰わせる。
それが人間の知性の性能を高める一番良い方法だと実に多くの人が信じている。
だからいい頭を持って生まれついた子ども達は、それをおのれひとりの立身出世や銭儲けのために専一的に用いるようになる。
子どもの頃から、親や教師が執拗にそう教唆しているんだから仕方が無い。


知性というのは、その持ち主の私物ではない。
それはとりあえずは「天賦のもの」なんです。
自分で努力して手に入れたものじゃない。
生まれつきそこにあったものです。
だったら、それはある種の謎としてとらえるべきでしょう。
それを利用して自己利益を増大させるというような使い方をすべきではない。
まして、自分で設定した目的を果たしたら、用済みにして物置に放り込んでおくというような扱いが許されるはずがない。


ある学問分野に次々と若い才能が集まってくるようにしたいとおもうなら、子ども達に向かって語りかけるという仕事を怠ってはいけないと思うんです。
「自分たちがこうして道を切り開いているのは、後から来る君たちのためなのだ。ちゃんと迷わずついてきなさい」というはっきりしたメッセージを発信できる学問分野には若い人たちが集まってくる。


内田樹「最終講義-生き延びるための六講」より

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