認知症老人の記憶

介護施設に集う認知症の母の目に映るのは、かつて彼女が一番輝いていた時代。女性たちの人生に戦中戦後の日本が去来する傑作長編。
認知症老人の意識は先へは進まない。過去へ過去へと後ずさりして生きている、という。考えようによってはもう一度生き直している。
「その昔って、いつ頃なんでしょうね」
「いっそご本人に尋ねてみられては?」
大橋看護師は真顔で言った。
まさか。
「尋ねたら答えますか?」
もしそんなことができたら、認知症介護の苦労はたちまち半減するだろう。
「年齢を尋ねるんですよ」
と大橋看護師は言う。
「初音さんのお齢は幾つですか?教えてくださいって。二十歳とか、三十歳とかね、八十、九十のお年寄りが仰ることもあるんですよ。もっと小さい子どもの頃に還っておられることだってあります。」
村田喜代子著「エリザベスの友達」2018年より。eriキャプチャ.PNG
そう訊いてみればよかったな。

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